H(39)・H44プロジェクト(BB)未完成 (’03.2.17)(’05.3.19)

H(39)級

 ベルサイユ条約破棄後、英独海軍協定によって、イギリス海軍力の35%を保有出来る事となったドイツだが、この時対イギリス35%という不利な比率で納得したのは、元来イギリスとの不戦を望んでいたという政治的背景の他に、現実的な問題として当時のドイツが建造できる艦艇は35%程度が限度だったこともある。ともかく、主力艦の保有を認められたドイツは「ビスマルク」級の建造を開始する。戦艦の他にも空母、重巡洋艦等各種軍艦の建造が活発に計画された。が、当時のドイツには、どのような海軍を建設するかについて明確なビジョンは無かった。第二次大戦前夜、ドイツの仮想敵国はイギリス、フランス、ソ連だったが、対仏ソ戦については陸上戦が中心となり、せいぜい沿岸警備海軍でこと足りてしまい戦艦を中心とした海軍力の出番はない。
 したがってドイツ海軍にとっての仮想敵国はイギリスとなるが、イギリス海軍はあまりに強大で、再建の途についたばかりのドイツ海軍が対抗できるだけの戦力を備えるには相当な長期間が必要だった。当時潜水艦部隊の指揮官だったカール・デーニッツ海軍大佐は、より現実的な選択肢としてUボートを中心とした通商破壊艦隊の建設を提唱した。これに対しドイツ海軍総司令官エーリッヒ・レーダー海軍大将は、第一次大戦のような水上主力艦による艦隊決戦を指向していた。
 ヒトラーによる裁断はレーダー案であった。当時のヒトラーは戦争突入の時期を1946年以降としていたので、それまでにイギリスに対抗できる海軍力の整備を指示したのである。かくしてドイツは英独海軍協定を一方的に破棄し、新たなる海軍拡張計画「Z計画」の策定に邁進する。

 この「Z計画」の主力艦として設計されたのが「H」級戦艦6隻であった。Hという略号は、第一次大戦以降の主力艦にアルファベット順を振っていたからで、A〜Cが「ドイッチェラント」級(ポケット戦艦または装甲艦、後に重巡とされた)、D、Eが「シャルンホルスト」級、F、Gが「ビスマルク」級であり「H」級は「ビスマルク」級の次に計画された戦艦となる。「H」級の基本的デザインは「ビスマルク」級にそっくりであった。ただし、主砲を38センチから40.6センチに大型化したのに伴って船体も拡大している。
 特徴的なのは機関部で、「ビスマルク」級が蒸気タービンだったのに対し、ディーゼル3軸と大型艦でありながらディーゼル機関としている。3軸推進というのは、世界的には珍しい配置だが前述の通りドイツでは伝統的な配置で、巡航時は中央一軸を動かすだけで済むからであった。
 ディーゼル機関の採用は、航続距離を延ばすためのものである。ディーゼル機関は蒸気タービン機関に比べて燃費が良く、航続距離を延ばすことが可能で、先に建造されたポケット戦艦では20,000海里という長大な航続力を得ている。これは通商破壊艦として非常に有利な事だが、ポケット戦艦に搭載された初期段階の大出力ディーゼル機関は、振動が激しいという欠点が有った。そのため、つづいて建造された「シャルンホルスト」級・「ビスマルク」級では、航続距離を犠牲にして蒸気タービン機関を採用している。
 日本でもポケット戦艦に影響されてディーゼル艦を開発したが、どの艦も不調だった。一時はディーゼル機関の併用も検討された「大和」級も、全機関蒸気タービンとされている。しかし、「H」級用に改良されたMZ65/95型ディーゼル機関は、こうした欠点を克服した新型機関で、直列9気筒13,750馬力、1軸当たりに4基を配置55,000馬力/1軸、3軸合計165,000馬力の大出力を得た「H」級は、max30ノット、巡航19ノット(中央軸のみ駆動)で19,200海里という航続距離を発揮し、艦隊決戦にも通商破壊にも向く万能艦であった。

 主砲の47口径40.6センチ砲は、「サウスダコタ」級・「ネルソン」級や「長門」級の45口径より強力で、のちに竣工した「アイオワ」級の50口径に匹敵する威力を有していた。発射速度2発/毎分は早かったが、最大射程36,800mは40センチクラスの砲としては短い方だった。が、命中率の落ちる遠距離砲撃を好まなかったドイツにとって不満は無かった様である。
 また、通商破壊戦に有効とされる魚雷発射管を搭載していることも特徴の一つ。戦艦に魚雷発射管を搭載する事は、すでに「テルピッツ」で行われていたが、「テルピッツ」の発射管は甲板上にあったので、誘爆の危険性が高く、「H」級ではより安全な水中発射管に変更されている。

 「H」級は、まず「H」が1939年7月15日起工、ついで「J」が同年9月1日起工されたが、「J」起工の当日、ドイツ軍はポーランドに侵攻し第二次大戦が勃発する。大戦の勃発は「1946年まで戦争は起こらない」という前提で計画された「Z計画」に決定的なダメージを与えた。戦端が開かれた以上、竣工までに4年はかかる戦艦の建造を続ける余裕など無いからである。ヒトラーの誤算によりドイツ海軍は、開戦前の貴重な時間を大艦隊建設という無益な行動に費やされてしまう結果となった。
 「Z計画」の艦船は次々と建造を中止され、あるものは解体、あるものは現状放置された。「H」「J」のわずかに組み上がった船体は解体され、未起工の「K」以下は建造計画が中止される。すでに制作中だった主砲の40.6センチ砲は大西洋沿岸砲として転用されることとなり、フランスに3門、ノルウェーに7門が設置されている。

この沿岸砲を連合軍の特殊部隊が破壊するといった映画を以前見たことが有るような気がしてます。
*頂いた除法によると。『ナバロンの要塞』のようです。

「H(39)級」

 基準排水量/ 55,453 t (満載排水量/ 62,497t)
 全長/ 277.8 m
 最大幅/ 37.2 m
 喫水/ 10.2 m
 速力/ 30 ノット
 機関出力/ 165,000 馬力
 航続距離/ 19ノット時19,200海里
 兵装/ 47口径40.6センチ連装砲 4基
       55口径15センチ連装砲 6基
       65口径10.5センチ連装高角砲 8基
       37mm連装対空機関砲 8基
       53.3センチ魚発射管 6基
 水偵/ 4機
 乗員/ 2,600名

同型艦 「J」「K」「L」「M」「N」

 ドイツド イ ツ

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