ちょっと、趣向を変えて映画の話です。
先日、古本屋で「プライベート・ライアン」の文庫本を買ってきました。数年前に上映された同名の映画の原作訳本です。読み終わった時には涙を禁じ得ませんでした。
当時ロードショーで観ていますので、読み進むうちにその場面の映像が思い出されて、単に小説を読むのと違った趣があります。この楽しみ方は「エアフォース・ワン」で初めて知った楽しみ方です。映像を想像する楽しみが読書にはありますが、映画と原作本を組み合わせて楽しむのもまたおつなものです。映画の場面場面での登場人物の心の中まで見えてくるので、映画→原作本→映画の順番で見ると一回目と二回目の映画の見方が変わります。
さて「プライベート・ライアン」(原題 Saving Private Ryan)ですが、「ノルマンディ上陸作戦」「The D-day」等でおなじみの「オマハビーチ」に上陸したアメリカレンジャー部隊中隊長ミラー大尉を中心に、1個分隊で一人の二等兵を無事帰還させる特別作戦のお話です。タイトルの「プライベート」は、日本人には「個人的」のような意味に捕らえがちですが、当時の(いまも?)アメリカ陸軍で「二等兵」の別称として「プライベート」と呼んでいたそうです。従って原題を直訳すると「ライアン二等兵を救出」とでもなるのでしょうか。内容にはあまり触れません、レンタルビデオショップで借りてきて一度見て下さい。前半の「オマハビーチ」の上陸シーンはかなりシュールです。心臓が弱い方にはお勧めしません。
なぜこの項で取り上げたかというと、この物語の遠縁にアメリカ海軍で「アイアンボトム」(鋼鉄の海底)「アイアンボトム・サウンド」(鋼鉄の海峡)と呼ばれる、ガダルカナル島とフロリダ諸島の間の海峡(二次大戦中に多くの艦船が沈没したためこう呼ばれます)に眠っている、アトランタ級軽巡洋艦CL−52「ジュノー(T)」に乗り組んでいた、「サリバン5兄弟」の戦死があるからです。第3次ソロモン海戦の二日間で沈んだ大小15隻の艦艇の一隻「ジュノー」は、沈没時638名の乗員のうち、150名ほどが漂流していましたが、近くに味方艦もなく、6日後に島に漂着した時は7人だけだったそうです。そしてこの戦死者のなかに「ジョセフ」「フランシス」「アルバート」「マディソン」「ジョージ」の五人の「サリバン兄弟」がいました。サリバン5兄弟の戦死を悼しんだアメリカ海軍は、彼らの勇気を称えるために、「フレッチャー」級の一隻DD−537に「The Sullivans」と命名して、1943年2月10日、母アレタ・サリバンの手で進水しました。また1977年DD−537退役後の1993年には、アークバレイ級DDG−68「The Sullivans」が二代目として、「アルバート」の孫娘「ケリー・サリバン」の手で進水しています。
アメリカ人なら誰もが知っているこの話を知らないと、物語の中で、「ペンタゴン」(アメリカ国防省 建物が5角形をしているのでこう呼ばれる)の職員の、「トマス」「ピーター」「ダニエル」のライアン3兄弟の戦死報を見たときのあわてぶりが良く理解できません。
また、陸軍で大尉が分隊を率いて行動することは、ほとんどありません。分隊は8〜12名が定数で軍曹クラス分隊長です。3個分隊ないし4個分隊で1個小隊、小隊長は少尉。さらに3〜4個小隊で1個中隊、中隊長は大尉。そして、3〜4個中隊で1個大隊、大隊長は少佐ですね。さらに4個大隊で連隊、連隊長は大佐。ですから行く先々で大尉が来たら後に中隊が援軍として来ていると思った兵士の落胆がうかがえます。
ちなみに海軍の場合、駆逐艦艦長は少尉〜大尉、駆逐戦隊戦隊長は少佐以上で嚮導駆逐艦艦長を兼ねていることも多い、軽巡艦長は少佐以上の佐官、重巡以上の大型艦艦長は大佐クラス、艦隊司令官はもちろん将官ですね。
ハリウッド映画は、基本的にはアメリカ人向けに出来ているので、この手の話が結構ありますね。映画はそれほど詳しい訳では無く、古い例えで恐縮ですが、「バック・トゥ・ザ・フューチャーT」の中でも多々でてきます。お父さんのかわりに母方のおじいちゃんの車にひかれたマーティーを介護していたお母さんが、「あなたの名前って カルバンクラインっていうの? パンツに名前が書いてある 珍しい人ね」言うセリフがあります。魅惑の深海パーティーでマーティーが弾いた「ジョニー・ビー・グッド」を電話で聞かされた人は、作者のチャック・ベリーだったりします。今なら笑うところだと判りますが、当時は笑えませんでした。
話がそれましたが、小説を読んで久しぶりに感動したので、ここにちょっと紹介させてもらいました。さて、レンタルビデオショップにでも行きますか?
copyleft 2003 yukikaze